どれだけ入念な対策を講じていても、サイバー攻撃を100%防ぐことはできません。
ランサムウェアは日々巧妙化しており、感染を「完全に防ぐ」よりも「被害を最小限に抑えるための初動対応と体制づくり」が極めて重要です。
本章では、ランサムウェア感染が発覚した際の対応フロー、再発防止に向けた取り組み、復旧にかかる時間とコストの目安について、実務的な観点からわかりやすく解説します。

ランサムウェア感染時の初動対応フロー
感染が発覚した際には、以下の5つのステップを順序通り・迅速に実施することが重要です。
この対応は、CSIRT(インシデント対応チーム)または情報システム部門を中心に主導されます。
【STEP1】感染端末のネットワーク遮断(物理的切り離し)
目的:他端末・サーバーへの拡散防止
- 感染が疑われるPC・サーバーを、LAN・Wi-Fi・VPNなどすべてのネットワークから即時切断する
- 電源は落とさず、ネットワークのみ遮断するのが原則
→ メモリ上の証拠保全のため
【STEP2】社内外への迅速な報告・情報共有
目的:関係者への迅速な連絡と連携体制の構築
- 【社内】情報システム部門、経営層、法務、広報などに即時報告
- 【社外】セキュリティベンダー、CSIRT外部支援、弁護士などと連携開始
- 必要に応じてIPAや警察庁サイバー窓口への通報を検討
【STEP3】被害範囲の特定とログの保全
目的:被害範囲と侵入経路の特定、証拠の保持
- 影響を受けた端末・サーバーの一覧を作成
- 初期侵入ポイント(外部からのアクセス経路など)を特定
- 暗号化または漏洩した可能性のあるファイルを特定
- 関連するログ(ネットワーク・アクセス・端末ログなど)を取得・保全
→ 後の法的対応・保険申請に活用可能
【STEP4】復旧対応(バックアップからの復元)
目的:安全な状態での業務再開
- 感染前のバックアップデータを使用して復元
- クリーンなネットワーク環境下で復旧作業を行う
- 再発防止策を講じた後、本番環境へ移行
→ 復旧前にデータの安全性と再感染の有無を必ず確認
【STEP5】身代金支払いの判断は慎重に
目的:不要なリスク回避と法的リスクの最小化
- 攻撃者が復号キーの購入を要求してくる場合があるが、支払いは非推奨
- 支払っても復元される保証はなく、再び標的となる可能性も
- 判断が必要な場合は、法務・セキュリティ専門家と協議して慎重に決定すること
復旧にかかる時間とコストの目安
規模 | 復旧期間の目安 | コストの目安(概算) |
---|---|---|
中小企業 | 数日〜2週間 | 約100万円〜1,000万円 |
大企業 | 数週間〜数か月 | 数1000万円〜数億円 |
※ 上記には、人的対応工数、外部支援費、復旧ツール導入費、訴訟費用、風評被害対応などが含まれます。また、情報漏洩が公になった場合、企業の信用失墜が長期的に続く可能性もあります。
再発防止に向けた企業の取り組み
1. インシデントレポートの作成と全社共有
対応後は、以下の内容を含むレポートを作成・保管します:
- 発生日時、侵入経路、被害範囲
- 初動対応の実施内容と効果
- 課題・改善点の洗い出し
この情報を社内で共有し、再発防止・セキュリティ意識の向上につなげます。
2. セキュリティ体制の見直しと強化
次の観点から、社内のセキュリティ体制を再評価します:
- 感染経路は完全に遮断できているか
- ネットワーク構成・アクセス権限に脆弱性がないか
- 年次で訓練・教育が実施されているか
感染を機により強固な体制を構築しましょう。
まとめ
ランサムウェア攻撃は、企業の事業継続に深刻な影響を与える脅威です。
しかし、適切な備えと迅速な対応体制があれば、被害を最小限にとどめることが可能です。
次章では、万が一の事態に備えるための「バックアップ体制」について、実践的な構築手法とチェックポイントを詳しく解説します。
「ランサムウェアとは?」目次
- 【第1章】ランサムウェアの基本的な仕組みと脅威の本質
- 【第2章】ランサムウェアの感染経路と攻撃方法
- 【第3章】企業が取り組むべきランサムウェア対策
- 【第4章】感染時の緊急対応フローと再発防止への取り組み
- 【第5章】バックアップは企業を守る最後の砦 《9/1公開予定》
- 【第6章】今後の脅威動向と企業がとるべきセキュリティ戦略 《9/8公開予定》
- 【第7章】今すぐできるランサムウェア対策の第一歩 《9/15公開予定》
サイバー攻撃から企業と顧客を守るためにも、ぜひ最後までお読みください。